名古屋高等裁判所金沢支部 昭和52年(ネ)16号・昭52年(ネ)17号 判決
主文
第一審被告らの控訴をいずれも棄却する。
第一審原告らの控訴に基き原判決を次のとおり変更する。
第一審被告らは各者、第一審原告山口きよ美に対し金九九三万〇、二四三円および内金九〇二万七、四九四円に対する昭和四九年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、第一審原告山口真基人、同山口百合美、同山口実佐貴に対し各金四五六万六、八二九円および各内金四一五万一、六六三円に対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。第一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その一を第一審原告らの負担、その余を第一審被告らの連帯負担とする。
この判決の主文第三項は仮に執行することができる。
ただし、第一審被告らにおいて共同して、第一審原告山口きよ美に対し金六五〇万円、第一審原告山口真基人、同山口百合美、同山口実佐貴に対し各金三〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一審被告らは、第一六号事件につき「原判決中第一審被告ら敗訴部分を取消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、第一七号事件につき控訴棄却の判決並びに担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。
第一審原告らは、第一七号事件につき「原判決を次のとおり変更する。第一審被告らは連帯して、第一審原告山口きよ美に対し金一、〇五三万八、二〇一円および内金九五八万〇、一八三円に対する昭和四九年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、第一審原告山口真基人、同山口百合美、同山口実佐貴に対し各金五五二万二、一三四円および各内金五〇二万〇、一二二円に対する昭和四九年二月一七日から支払済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの連帯負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、第一六号事件につき控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
(第一審原告らの主張)
1 請求原因3項の(一)を次のとおり改める。
「(一) 外二郎が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり一、六五四万六、二三〇円と算定されるところ、内金一、五八四万〇、五五〇円を主張する。
(死亡時)三六歳(昭和一二年五月一八日生)
(稼働可能年数)三一年(六七歳に達するまで)
(収入)給与一〇九万三、七三三円
(昭和四八年三月中旬から昭和四九年一二月中旬まで)
失業保険金一八万九、四二〇円(昭和四七年一二月中旬から昭和四八年三月中旬まで)
合計 一二八万三、一五三円
(控除すべき生活費)三割
(三一年間の単利年金現価率)18.4214
(算式)
1,283,153×(1−0.3)×18.4214=
16,546,230」
2 本件道路の設置の瑕疵について
(一) 国道一五七号線における雪崩の危険性
右国道の鶴来町から奥の方は本件事故現場付近を含めて屹立した山林が道路に迫つており石川県内における一番の多雪地帯であつて、毎年冬季の積雪量は二〇〇センチメートルから三〇〇センチメートルに達し、そのため過去に数多くの雪崩が発生し、本件事故発生以前の一か月だけをみても大小はともかくとして雪崩の発生は二〇回以上におよんでいるのである。
(二) 本件事故現場付近の雪崩の予見性
この付近の西側は手取川にいたる崖地であるが、その東側は高さ約一〇〇メートルの山林が道路に迫り、勾配は雪崩の最も生じやすい四〇度ないし五〇度の傾斜で、その斜面長は約二〇〇メートルに達し、西日をまともにうけるため雪崩発生の条件が揃つており、過去にも人命にかかわるものではなかつたが幾多の雪崩が発生してきたことは明らかであり、積雪、地形、日射等の諸条件から観察して雪崩発生の予見は十分に可能であつたものである。
(三) 本件現場付近の山頂から中腹にかけて雪崩の発生を推認させる倒木が幾多存在している。本件雪崩発生源付近およびその走路の付近は何れも窪地となつており、降雨や日射をうけた積雪の融雪水が地表に集つて流れるようになつており、これが積雪の抗剪力を弱めて雪のずれを生じさせ、もつて雪圧や雪崩によつて木を押倒したものと推認できるのである。
(四) 第一審被告らは本件事故以前において東側山林に雪崩防止の施設対策を何ら講じていない。本件現場付近は「ホーケの坂」と呼ばれ、古くから雪崩発生の交通の難所とされ、たまたま人命に死傷はおよぼさなかつたとしても大小様々の雪崩が発生してきたところであり、積雪や地形、日射等の条件より雪崩が発生しやすく、現に雪圧や雪崩によるものと推認される倒木が幾多存在しており、雪崩発生の危険性が多分にあり、その予見は十分に可能であつたのに第一審被告らは本件事故をみるまでその東側山林に雪崩の発生を防止し、あるいは発生した雪崩の小規模のうちにこれを喰いとめる防止の施設対策、すなわち階段工、土塁工、杭打工、柵工等の設備を何一つしていないのである。第一審被告らは雪崩防止の鉄柵工を本件事故が起きてからあわてて昭和四九年八月末から赤土の露出したその上辺に、また昭和五二年一〇月下旬に至つて漸く本件雪崩発生源の付近とその通路の付近に設置したが、あくまでもその対策は後手であるといわなければならない。もしもこれらの施設対策が本件事故の以前になされていたならば上方で発生した表層雪崩はその地点の鉄柵で喰止められていたであろうし、仮りに一部の雪崩が下方に流出したとしても中腹の鉄柵でさらに勢いをそがれて本件のような大事故には至らなかつたであろう。
3 本件道路の管理の瑕疵について
(一) 本件事故現場付近の雪崩の予見性
本件事故現場付近は「ホーケの坂」と呼ばれて雪崩による交通の難所とされ、数多くの雪崩の発生をみてきたところである。積雪、地形、日射の諸条件からみても雪崩の発生が予見され、その山林の頂上付近や中腹付近において雪崩の発生を推認させる倒木が幾多存在しており、これらの点から雪崩の発生を容易に予見できるところである。
(二) 事故前日からの気象条件が本件雪崩を誘発した。
本件事故現場最寄りの鳥越農業気象観測所の測定では、二月一〇日から一三日までの最高気温がマイナス0.9度から2.6度ぐらいでこの間に積雪は一八七センチメートルに達していたものが、事故前日の一五日には最高気温が7.6度にのぼり降水量も四ミリで積雪は二三センチメートルもとけ、事故当日の一六日には最高気温が7.4度を維持し、雨は降らなかつたが一日中暖かい日で積雪は二〇センチメートルもとけている。また、建設省鶴来出張所の測定で、事故前日の一五日が7.8度、当日の一六日が九度となつており、積雪は一五日の降雨と一六日の日射によりかなりとけて鶴来土木事務所の測定で一一八センチメートルであつたものが八五センチメートルと三三センチメートルもとけ、河内村役場測定で一九〇センチメートルであつたものが一四五センチメートルと四五センチメートルもとけていることがわかる。殊に、積雪のとけ具合が一五日の午後三時から一六日の午前八時にかけて多く鶴来土木事務所測定で二〇センチメートル、河内村役場測定で二五センチメートルもとけている。要するに、二月上旬から一三日ごろにかけて降り積つた雪が事故前日の一五日の降雨と事故当日の一六日の四月上旬の陽気のような暖さのために二日間で三三センチメートルから四五センチメートルも融け、もつて山林における積雪の抗剪力を極度に弱め、このような気象状態が本件雪崩を誘発したもので、右雪崩発生の予見もまた容易であつたものである。
(三) 第一審被告らの道路の管理は極めてずさんである。
右のように本件事故現場付近は過去に雪崩が発生していること、東側山林は直ちに道路に迫り、その積雪は極めて多く地形からも雪崩が生じやすく、加えて前記のとおり事故前日から当日にかけての気温の上昇、降雨、春を思わす陽気な天候は雪崩の危険が極めて高く、その予見が容易であつたのに第一審被告らのなした道路の管理は単に一日一回のパトロールをなすのみで事故当日の一六日は午前九時ごろにこれを実施したのである。第一審被告らは事故直前の午後五時すぎころ、もう一度パトロールをなしたというが当日は土曜日の半どんであり、まことに疑わしい。ともかくもパトロールをなしたのみでその他の対策は何もとつていないのである。交通の確保もさることながら、より重要なのは安全の確保である。雪崩発生の危険を逸早く予見し道路通行者が被害を被らないように雪崩発生の危険個所を察知して「雪崩に注意」の標識を立て、あるいは監視員を配備して通行者を危険区域に近づかせないような施策が講ぜられるべきであり、さらに危険度の高いときは迂回路があればこれを利用させるか、それがないときは時間を限定して通行を禁止し、もつて人命を雪崩の被害からまもり十分な避難対策を講ずべきであるのに第一審被告らはこれらの対策を全然とらなかつたために本件事故を招き、もつて訴外山口外二郎を死に至らしめたものである。
(第一審被告らの主張)
1 雪崩の発生に対する予見可能性
雪崩は発生のメカニズムが複雑な自然現象であり、今日の科学水準をもつてしてもその発生を予見することは不可能であり、極言すれば、その発生の原因は斜面に雪が堆積するかぎり常に存在することになるから、これの発生による事故を防止するとすれば、各期間この種の道路は通行止にせざるを得なくなり、到底現実の社会生活に適合せず、たまたま事故が発生したからと言つて通行止、その他の措置をとらなかつたことに責任原因を求めるのは、雪崩に対する甚しい認識不足であり、現実から著しく遊離した理論といわなければならない。
なお、雪崩とは、広義では斜面の積雪が何らかの原因で崩落する現象を意味するが、このような意味における雪崩は、自然科学的見地からみた場合、力学の法則により、斜面に積雪があるところ常に発生の可能性があるものである。しかしながら、真に警戒を要し危険とされる雪崩なるものは、相当広い範囲の斜面に長時間に亘り安定した形で堆積していた大量の積雪が、何らかの原因によつて予期しない時期に突然に崩落するものをいうのである。そしてこのような雪崩はその特徴として、雪崩が山腹斜面を走行することによつて起こる衝撃により、その進路周辺の積雪をまきこみながら、次第にその勢力を助長する結果巨大な物理力を帯有するに至るものであるが、このような雪崩のみが人の生命身体に危害を与える危険性を有し、十分な警戒を要するのである。したがつて、斜面が急勾配であつて、降雪が堆積することなく、短時間の間に順次崩れ落ちるようなものや、斜面距離が短かい場合における積雪の崩落は広い意味では雪崩の部類に入るとしても、その物理力は人の生命身体に危害を与える程の危険性を有するものではないから、このような雪の崩落はいわば単なる「落雪」として、人の生命身体に危害を与える危険性を有する雪崩と区分して考察を加える必要がある。
また、雪崩はそれが発生すべき条件の一つとして、特定の場所と密接な因果関係があるから、当該現場における過去の雪崩歴が最も重視されるべく、これを考慮の外において、当該現場における雪崩発生の予見可能性を論ずることは全くナンセンスというべきである。したがつて、他の場所の事例は勿論、たとえ現場に近接した場所において過去に雪崩が発生した事実があつたとしても、同題となる「当該現場」とは雪崩発生の条件の一部である地形、植生、地質等に微妙な差異があり参考となるものではない。即ち、さきに述べたように、自然科学的な見地からするときは、斜面に積雪がある以上雪崩発生の可能性があるとみられる場所は無数に存在するといつていいが、現実に雪崩が発生するほとんどの場所は、このうちの極く一部の、しかも特定の場所においてのみ反覆して発生しているということは経験則上明らかなところである。このことは雪崩の発生というものは地形上の条件がほぼ同一であつても、現実には同様に常に発生するものではないという特質を有するものであることを意味する。
2 道路管理者はその管理内容を定めるに当つて、特別の事情がない限り、気象台の予報に従えば足りる。
本件事故発生日の午前五時四五分に雪崩注意報が解除されていることは、争いのない事実であるが、この解除は本件事故現場に近い鳥越農業気象観測所の測定値をも考慮し決定されたものである。したがつて、右雪崩注意報の解除は、現地の気象条件を当然考慮したうえで決定された専門機関たる金沢地方気象台の気象通報である以上、気象観測については専門家でない現地の道路管理者としては、気象台の通報を信頼し、それに従えば足りるものというべく、気象観測機関でもない鶴来土木事務所に気象台以上の専門的判断を求めることは不能を求めるものであつて、かかることは法の予定するところではないというべきである。元来行政機関は、相互に専門機関からの通報ないし連絡等を信頼し行動してこそ行政が能率よく円滑に運営され、国民に対するサービスが全うできるものである。ところが、もし、行政機関が各専門機関の通報等を信頼したことについて問責され、当該事項についての専門機関でない行政機関が、その機関の専門外の事項につき、所管専門機関以上の高度の専門的判断をなすべきことを要求され、これによつてその行為の適法違法の法的評価を受けなければならないとすると、いたずらに行政に混乱を招くのみならず、その円滑な能率的運用を妨げるに至るものであることは、火を見るよりも明らかなところである。したがつて本件の場合、気象観測に関し、道路管理者に気象台以上の専門的判断をすべきであるとする解釈には到底承服し得ないところである。
3 積雪断面調査は現実には不可能であり、仮りに可能であるとしても、その結果はさして確度の高い雪崩予知につながるものでない。また、確実な調査を行うには雪崩発生源に立入る必要があるが、そのような場所へ立入ることは危険であり、現在の技術水準をもつてしても発生源を確定できない状態であるから、この調査自体不可能を強いるものである。
4 当時、本件事故現場においては、雪崩発生の危険性はなく、本件道路の通行を制限または禁止すべき徴候もなかつた。
第一審原告は、当日の気象条件が雪崩を誘発したというのであるが、もし、第一審原告のいうように、当時の気象条件が雪崩を誘発するのに適していたとすれば、過去に発生した雪崩の事例からいつて本件事故現場付近は勿論、本件現場より白峰方面にかけて雪崩が多発していなければならない道理である。にもかかわらず、現実にはそのような雪崩は発生していないのである。したがつて、当日の気象条件をもつて本件雪崩を予測するが如きは、到底何人をもつてしてもなしえないところであつたことは明らかである。
なお、ある特定の場所につき過去に雪崩の発生歴のない場合、当該場所において当然には雪崩の発生を予期し得ないことは言をまたないところであり、雪崩の発生を単に本件事故現場の地勢、事故発生当時の積雪状態、気象等によつてのみこれを認定することは誤りである。
第一審原告は、第一審被告が本件事故現場に当時雪崩注意の標識を立てる等、事故回避の対策を講じなかつた点に、本件道路の管理に瑕疵があつたと主張している。しかし、本件雪崩発生場所において過去に雪崩が発生したという事実がなかつたのであり、したがつて、雪崩歴のない箇所で、しかも雪崩注意報解除後においてなお本件現場の雪崩発生を予測することは不可能であるから、そのような標識を立てる等の措置を講ずべき法的義務もなければ、そもそもその必要すら存しないものといわなければならない。それゆえ道路の管理に何らの瑕疵はない。仮に、雪崩の発生を全く予測できないような場所にまで、雪崩の注意標識を立て、あるいは監視員を配備し、または通行禁止する等の措置が法的義務として課せられているとすれば、斜面に積雪のある道路には全て注意標識を立て、場合によつては、何らのそれらしき外部的兆候がみられなくとも、通行規制を行う等の措置をとる必要があることになるが、このような措置をとらなければならないとしたならば、当該道路を生活道路としている沿道住民の日常生活に極めて重大な影響ないし支障をもたらすことは言をまたないところである。したがつて法が道路管理者にそのような厳しい法的義務を課しているとは到底解しえないところというべきである。
5 第一審原告らの損害の主張はいずれも争う。
(証拠関係)<省略>
理由
一訴外山口外二郎が、昭和四九年二月一六日午後五時二〇分頃、石川県石川郡鶴来町中島町カ六番地先国道一五七号線(以下本件道路という)を鶴来町方面から白峰村方面に向けて普通乗用自動車を運転して通行中、折から道路脇の崖の上方から落下してきた雪崩の下敷となり、雪によつて押しつぶされた自動車の屋根とハンドルに首をはさまれ、窒息により即死したことは当事者間に争いがない。
二本件雪崩の態様および原因についての当裁判所の判断は、原審裁判所のそれと同一であるから、原判決理由説示中の右に関する部分(原判決理由二項および三項)を引用する。
三本件道路は、第一審被告国がこれを設置し、訴外石川県知事が国の機関としてその管理を行つていること、本件事故現場付近の管理担当署が石川県鶴来土木事務所であること、第一審被告石川県が本件道路につき道路法四九条、五〇条の定める費用負担者であることは当事者間に争いがない。
四当裁判所も、本件道路に設置の点で瑕疵があつたとみることはできないと判断するものであり、その理由は次のとおり付加するほか、原審裁判所のそれと同一であるから、この点に関する原判決理由説示(原判決理由四項)を引用する。
第一審原告らは、本件事故後の昭和五二年一〇月頃本件雪崩発生源付近および本件雪崩の通路付近に設置されたような鉄柵が本件事故発生前に設置されていなかつたことをもつて本件道路の設置の瑕疵であると主張するが、本件事故前において本件事故現場付近道路の東側の山腹一帯のうち右の場所が特に雪崩発生の危険性が高いという判断を容易になし得たとは認められないし、付近の山腹全面にわたつて鉄柵を設置することが道路設置のうえで当然に義務づけられるとも認められないから、第一審原告らの右主張は採用できない。
五当裁判所も本件道路の管理には瑕疵があつたと判断するものであるが、その理由は原審裁判所のそれと一部を除き同一であるから、この点に関する原判決理由説示(原判決理由五項)を次のとおり付加、訂正のうえ引用する。
1 原判決書二二枚目裏八行目のはじめから二三枚目裏初行の「前記認定事実によれば、」までを次のとおり改める。
「そして右各法条および国家賠償法二条の趣旨に鑑みると、同条にいう道路の管理に瑕疵があつたことのうちには、道路の物的状態における安全性の保持が完全でなかつたことのほか、当該道路における交通の危険を防止するため道路の通行を禁止し、あるいは制限する等の措置を講ずべきときにこれを怠つたことをも含むものと解される。
本件についてこの点をみるに、<証拠>によれば、本件事故現場付近は、未だ山裾にかなりの広さの平地が存するものの、既に石川県南部の山岳地帯の末端を形成する山並みにかこまれた地域であること、本件事故現場から北方約八〇メートル、南方約五〇〇メートルの間の国道は道路東側に山が迫り、かなりの急勾配の山腹斜面が道路に沿つて連続していることが認められ、また前記認定のとおり、」
2 原判決書二四枚目表四行目の「さらに」から二五枚目表三行目の「が認められ、」までを削除し、同行の「これらの事実」の次に「と前認定の事故の前日および当日の気象状況」を加入する。
3 原判決理由五項の末尾に次のとおり付加する。
「第一審被告らは、道路管理者に右のような危険回避措置義務を課することは、道路管理者にその能力を超える判断を要求するものであり、事実上不可能を強いるものであるとして、特定の場所における雪崩の発生を具体的に予知することの困難性につき種々主張する。
しかしながら、雪崩が襲来する危険をはらむような道路は本来設置されるべきではないのであり、ただ、当該道路に依存して生活せざるを得ない地域の住民にとつてそれは必須の生活手段であるため、設置の面で可能な限りの予防措置を講じてもなお残存する雪崩による事故の危険は、通行規制等の管理面での措置によりこれを防止できるという前提のもとにその設置が許容されていると考えられるから、右措置がなされない状態で当該道路の一般使用をしていた通行者が雪崩に遭遇し被害を蒙つた場合、雪崩発生につき前記認定程度の一般的予測可能性が存する限り、国家賠償法二条による事後的救済の面においては、道路の管理に瑕疵があつたものとみて国または公共団体に賠償責任を負担させ、被害の分散をはかるのが相当であると解される。
即ち、右見地からその存在が肯定される危険回避措置義務は、事後的救済の面から道路の管理に瑕疵があつたとみるうえで論理約に前提される義務であり、これと同一内容の義務が道路管理者に対し事前に行政上の義務として当然に課せられるものではないから、第一審被告らの前記主張は失当である。」
六以上のとおり、本件事故は本件道路の瑕疵によつて生じたものと認められるから、第一審被告国は本件道路の管理者として国家賠償法二条一項により、第一審被告石川県は道路法四九条、五〇条による費用負担者であることから国家賠償法三条一項により、それぞれ本件事故によつて生じた損害を賠償する義務があるといわなければならない。
七当裁判所も、第一審被告らの過失相殺の主張は理由がないと判断するものであり、その理由は原審裁判所のそれと同一であるから、この点に関する原判決理由説示(原判決理由七項)を引用する。
また、第一審被告らは、本件事故の発生に関しては不可抗力的要因が競合しているとして賠償額の算定に当りその点が斟酌されるべきであると主張するが、そのような斟酌を相当とする事情を認めるに足りる証拠はない。
八<中略>
九そうすると、第一審原告山口きよ美の請求は、第一審被告らに対し、各自金九九三万〇、二四三円および内金九〇二万七、四九四円に対する本件事故の翌日である昭和四九年二月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、その余の第一審原告らの請求は、各々が第一審被告らに対し、各自金四五六万六、八二九円および内金四一五万一、六六三円に対する前同日から支払ずみまで前記割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
従つて、第一審原告らの請求は右理由がある部分につきこれを認容し、理由がない部分につきこれを棄却すべきところ、原判決は右と一部結論を異にするものであり、第一審被告らの控訴は理由がないが、第一審原告らの控訴は一部理由がある。
一〇よつて、第一審原告らの控訴に基き原判決を変更し、第一審被告らの控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行およびその免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(黒木美朝 富川秀秋 清水信之)
【参考・第一審判決】
二 本件雪崩の態様について
<証拠>によれば、次のような事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
本件雪崩は、学術的には面発生温雪全層雪崩(そこなだれ)と呼ばれるものであつて、その発生源は、本件事故現場東側山林の、道路からの高度約八〇メートル、斜面長約一五〇メートル地点の山腹であり、その部分の面積は長さ約一〇メートル余、幅六メートル余である、本件雪崩は、右発生源の約五〇ないし六〇立方メートルの積雪が全層雪崩となつて滑り出し、山腹を下降するにつれて扇形状に拡大し、発生地点より約三〇メートル下降した地点では幅一五メートル、約六〇メートル下降した地点では幅三〇メートルに拡散し、本件道路上にさしかかつた際には幅三〇メートル余、雪崩量一五〇〇立方メートル余、速度秒速一五ないし二〇メートルの勢力に達し、一部は路上に堆積したが、大半は道路を越え更に西側の谷川へ落下していつた。
三 本件雪崩の原因について
<証拠>を総合すれば、本件雪崩の原因は、異常積雪と異常気象の競合によるものと推認される。即ち、本件事故現場に近接する鳥越農業気象観測所の観測によれば、二月一四日には積雪の深さは二二八センチメートルに達したこと、事故前日の一五日の最高気温は7.6度に上昇し、四ミリの降雨があつたこと、事故当日は再び最高気温7.4度に上昇し、風速二メートルの南東の風があつたことが認められるが、このように斜面に蓄えられた大量の積雪が、異常高温の下で風雨にさらされたため、その融解が内部にまで及び、このため斜面の積雪の抗剪力が著しく減少し、また、融雪水の地表への滲透を促がし、雪崩現象を生じたものと推測される。
四 本件道路の設置の瑕疵の有無について
本件道路は、被告国がこれを設置し、訴外石川県知事が国の機関としてその管理を行つていること、本件事故現場付近の地形、道路拡幅工事前後の東側斜面の状況は当事者間に争いがない。
右争いのない事実と<証拠>を総合すれば、次のような事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
1 本件道路は、鶴来町とその奥にある村落とを結ぶ重要幹線道路であり、自動車の交通量も多いが、いわゆる山岳道路であつて、本件事故現場の東側は、高さ約一〇〇メートルの山林となつており、明治時代より雪崩防止保安林の指定を受けていた。
2 ところで、本件事故現場付近は、通称ホウケの坂と呼ばれているが、道路幅が狭い(全幅6.5メートル、車道幅5.5メートル)うえ屈曲が多いため交通の難所となつていた。このため昭和四七年八月三日から昭和四八年一〇月一日にかけて道路幅を全幅一〇メートル、車道幅6.5メートルに拡張し、直線道路とする道路改良工事が施工された。
3 右道路改良工事に当たつては、東側の保安林を伐採して崖地を幅3.5メートルにわたつて切り取つたが、保安林の伐採については、所轄の鶴来林業事務所と協議を経た結果、本件事故現場に関しては伐採面積が少いうえ、過去に雪崩発生の事例がなかつたことから、切取面にブロツク壁を設置してその天端に幅一メートルの階段工を作るという条件で保安林の指定の解除が許可された。その結果、本件事故現場東側の斜面は、道路敷から高さ9.4メートル、勾配六三度のブロツク壁が設置され、その天端は勾配一五ないし二〇度、幅員3.6メートルの階段工とされ、その上部は高さ四メートル、勾配四四度の切取面となつた。切取面は土砂混じりの土質である。右切取面の上端から山頂にかけては勾配四〇度の斜面となつており、従前どおりの保安林が維持された。
4 本件事故現場付近には、過去において雪崩発生の事例がなかつたが、昭和四九年二月一六日、本件雪崩に遭遇したため、本件事故切取面部分に雪崩防護柵が設置された。
ところで、道路法二九条によれば、「道路の構造は、当該道路の存する地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならない。」と規定されているから、道路の設置に瑕疵があるとは、道路がその構造上右のような要件を欠く状態にある場合を指称するものと解すべきである。
そして、これを本件道路について見るに、本件道路は重要幹線道路であつて交通量も多いこと、本件事故現場付近は道路端から上方が崖となつており、明治時代から雪崩防止保安林の指定がなされていたことを考慮すれば、本件事故現場の道路改良工事に当たつては、右保安係の存在に代わる十分な防護施設が設置されるべきであることは原告主張のとおりであり、<証拠>の記載及び本件事故発生前には雪崩防止柵が設けられていなかつたことに照らせば、被告国の講じた措置が適切かつ十分であつたか若干の疑問の余地なしとしない。
しかしながら、本件雪崩の発生源は、前叙のように道路敷からの高さ約八〇メートルの山頂付近の山腹であり、<証拠>によれば、本件規模の雪崩勢力に対しては、たとえ道路脇に強固の雪崩止擁壁を構築したとしても、雪崩流の本件道路への進出を防止することは困難であり、本件事故現場の道路改良工事に伴う保安林の一部伐採、ブロツク擁壁天端に設置された階段工の良否等はほとんど無視して差支えないことが認められるから、道路改良工事と本件雪崩の発生及び規模の拡大との間の相当因果関係を肯定することはできない。したがつて、この点に関する原告の主張は理由がない。
五 本件道路の管理の瑕疵の有無について
本件事故現場付近道路の管理担当署が石川県鶴来土木事務所であること、被告らが一日一回道路パトロールを行つたことは当事者間に争いがない。
<証拠>を総合すれば、次のような事実が認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
1 本件事故現場付近には、過去において雪崩発生の事例がなかつたが、本件道路の少し奥地では事故当日までの一か月間に限つても小規模の雪崩が頻発し、道路が塞がれたことがあつた。
2 石川県鶴来土木事務所は、道路情報モニターや市町村役場等から管内の道路情報を収集する他、気象情報については県の消防防災課、道路整備課を経て、気象台からの各種注意報をその発令、解除、内容の更新の都度伝達を受け、建設省鶴来出張所からも気温、手取川の水位等についての情報を収集し、雨量、積雪等については事務所独自で観測を行い、さらに一日一回のジープ(運転手、管理係、補修係各一名同乗)による道路パトロールを実施して、本件道路の管理に当たつてきた。道路パトロールにおいては、双眼鏡で山の積雪に亀裂が入つていないかどうかをみている。
3 事故前日の天候は、石川県鶴来土木事務所の観測では終日曇となつているが、本件事故現場最寄りの鳥越農業気象観測所の観測では降水量四ミリと記録され、また、気温は建設省鶴来出張所の測定では最高気温7.8度、最低気温零下4.5度、鳥越農業気象観測所の観測では最高気温7.6度、最低気温零下14.2度となつており、積雪の深さは鳥越農業気象観測所の測定では二〇五センチメートルとなつている。事故当日の天候は、鶴来土木事務所の観測では終日曇であり、気温は建設省鶴来出張所の測定では最高気温九度、最低気温3.7度、鳥越農業気象観測所の観測では、最高気温7.4度、最低気温零下6.8度となつており、同観測所での積雪は一八五センチメートル、毎秒二メートルの南東の風が記録されている。
4 金沢気象台は、事故前日の一五日午後五時一〇分、低気圧の日本海通過に伴う気温の上昇、南西の風、雨を根拠として風雨波浪雪崩注意報を発令したが、日本海の低気圧通過に関連した大きな気象的トラブルは一六日早朝には解消したとの判断のもとに、事故当日の一六日午前五時四五分、風雨波浪雪崩注意報を解除した。
5 事故当日の一六日には道路情報として特殊な情報はなく、道路パトロールに際して、工務課長から、路面の上にアイスバーンとか穴があいていないか、除雪した雪が道路の方へ出て道幅が狭くなつていないかを注意するようにとの指示があつたのみで、鳥越村地内にアイスバーンがあつたほか、本件事故現場を午前九時頃及び事故直前の午後五時一〇分頃通過した際には何等の異常もなかつた。
6 本件道路には、う回路として鶴来町中島町地内から吉野谷村木滑に至る道幅五ないし六メートルの県道が存在するが、右う回路には雪崩の危険はない。
7 石川県鶴来土木事務所は、事故後の一七日午前七時から職員二〇人を動員して管内の各道路をパトロールし、危険個所をチエツクするとともに計四〇個所に雪崩注意の道路標識を立てたほか、同日午後四時から本件道路と県道三路線で通行禁止の規制を実施した(なお、同日午前七時三〇分金沢気象台は雪崩注意報を発令した。)。
次に、道路法四二条には、「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」とされ、また同法四六条には、「道路管理者は、道路の破損、欠損その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合には、道路の構造を保全し、または交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、または制限することができる。」と規定されている。
<原判決書二二枚目裏八行目のはじめから二三枚目裏初行まで削除>本件事故現場の少し奥地では小規模の雪崩が頻発していたこと(本件道路は山岳道路であつて、平地を除きほぼ全線にわたつて本件事故現場と同一条件の斜面が続いているから、道路管理の瑕疵を論ずるに当たつては管理条件を同じくする地域を一体として把えるのが合理的である。)本件事故現場の東側山林は、明治時代より雪崩防止保安林の指定を受けていたことが明らかであり、また、その勾配は四〇度ないし六三度であるが、<証拠>によれば、四〇度内外の傾斜はもつとも雪崩の発生しやすい傾斜であることが認められる。そして、本件事故現場より奥地が石川県でも多雪地帯に属することは公知の事実である(本件事故現場最寄りの鳥越農業気象観測所の観測によれば事故当日の積雪は一八五センチメートルに達していたことは前叙のとおり。)。
<原判決書二四枚目表四行目から二五枚目表三行目まで削除>これらの事実を総合すれば、本件雪崩発生の定量的予測は不可能であつたにしても一般的に雪崩発生の危険性は当時優に予測しえたものといわなければならない。そしてそうだとすれば、道路管理者としては、雪崩の発生による事故を防止するために適切な管理方法を講ずべきものであつた。即ち、本件道路は重要幹線道路であつて交通量も多いことは前叙のとおりであるから、雪崩発生の危険性が予測される以上、雪崩発生による死傷事故の発生を予見することは十分に可能であつたというべきであり、しかも本件のような雪崩の発生そのものを阻止すること及び一旦始まつた雪崩の運動を道路に到達する前に阻止することは、現在の技術水準に鑑み、著しく困難であると考えられるから、道路管理としては、道路利用者に対し、雪崩の危険性があることを知らせて危険区域内へ進入することをあらかじめ中止させるか、あるいは適切な周知が期待できないときは通行の制限又は禁止の措置をとるなど、道路利用者が危険状態を知らずに危険区域に進入することがないような措置を講ずべきであつた。しかるに本件では、道路管理者において雪崩注意の警戒標識を立てて雪崩の発生を警告したり、通行の制限または禁止等の措置をとらなかつたことは前叙認定のとおりである。そして右のような通行規制等の措置は、本件事故後に実施されたことからも明らかなように、本件事故当時においても実施可能であり、ことに本件道路のようにう回路が存在する場合には、これによつて通行車両の運転者等道路利用者や当該地域住民の利益を著しく侵害するものとは考えられないから、合理的な管理方法の一つであつたと解される。
以上のとおりであるから、本件道路の管理には、道路の安全状態を維持し、交通の安全を確保するに欠けるところがあつた、即ち道路管理に瑕疵があつたといわなければならない。
六 不可抗力の主張について
被告らは、本件事故は、予見不可能な自然現象である本件雪崩の発生に起因するから、不可抗力による災害である旨主張する。
たしかに、本件雪崩の発生そのものを定量的に予測することは不可能であつたと推測されることは前叙のとおりであるけれども、積雪量とか気温等、雪崩発生の危険があるとされる要因の存否については、認識又は予測が可能であつたと考えられることは前記のとおりである。そして、本件においてはこれらの要因が存在し、諸般の情況からみて、雪崩発生の危険性があると判断することができた場合であると認められるから、道路管理者としては雪崩発生の危険性に対する対応策を講じることができる場合であつたといわねばならない。そして予見可能性が存在し、右予見可能性に基づいて適切な管理行為の実施を期待することができ(管理行為の期待可能性)、かつ、それによつて事故の発生を回避しえた(結果の回避可能性)場合には、不可抗力によるものということはできないから、被告らの主張は理由がなく、不可抗力の競合を理由とする過失相殺はこれを行わない。
七 被害者外二郎の過失について
<証拠>によれば、外二郎運転の自動車が本件事故現場の手前約一〇〇メートルの地点にさしかかつた際、雪の小さい固まりがパラパラと落下してきたこと、本件事故現場に到達した時には雪煙りで視界が閉ざされると同時にボンネツトに雪が落下し、数秒後に二回目の底雪崩が来襲したことが認められる。
被告らは、外二郎は本件事故現場の手前約一〇〇メートルの地点で雪崩の前兆というべき雪粒の落下に遭遇したのであるから、この時点で急停止の措置をとるべきであつたし、本件事故現場においても若干の時間的余裕があつたのであるから、自動車の屋根とハンドルに首を挾まれて窒息死するのを回避するための措置を講ずべきであつた旨主張する。しかし、雪粒の落下現象だけから外二郎が本件雪崩に巻き込まれる危険を予測しえたかどうか疑問であるし、まして本件事故現場において、雪煙りに包囲されて後、本件雪崩の来襲までは時間的な余裕があつたとは認められないから、外二郎に過失があつたと断定するのは酷というべきである。よつて、被告らの過失相殺の主張は採用しがたい。
八 結語
以上のとおり、本件道路の管理には瑕疵があり、そして、本件事故は右管理の瑕疵があつたために生じたものであるから、被告国は、本件道路の管理者として国家賠償法二条一項により、被告石川県は、道路法四九条、五〇条による費用負担者として国家賠償法三条一項により、それぞれ本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。<以下、省略>
(井上孝一 近江清勝 高柳輝雄)